そば切りのはじまり
そばは日本古来の伝統食というイメージですが、ざるそばやかけそばのような麺の形状、いわゆる「そば切り」となった歴史は意外に浅く、江戸時代の少し前から。日本でそばが見られるようになったのは縄文時代、また日本のそば栽培の起源は現在科学的に判明している資料では古墳時代といわれていますから、少なくとも1,500年以上前からそば切りが出来るまではそばの実を丸のまま食べる「そば米」やそばの実を砕いてお湯でこねた「そばがき」として食されてきました。 痩せた土地の貧しい作物がそば切りの発明により「信濃の国の名物」とまで謳われ、いっきにスターダムへと登りつめた訳です。
今なおうまいものの代表として君臨する「そば切り」は日本の食文化の大発明だったといえそうです。
そば粉の特性
そばにこだわると自分で打ってみたくなるもの。でもなぜかまとまらない、つながらない。うどんを打つのは得意なのに・・・ その訳はグルテンの有無。小麦粉には水でこねると粘りをだすグルテンというタンパク質が豊富。しかしそばのタンパク質にはグルテンがありません。うどんとはまたちがう、そば独自の心地よい食感を楽しめます。
石臼挽きのそば粉
「石臼挽き」のそばがうまいというのはまぎれもない真実。繊細で熱に弱いそばは、一昔前の大量生産のそば製粉機では機械が熱を持ち風味が飛んでしまうといわれていました。一方手で回す石臼は少量ずつゆっくり挽くため熱がかからず、風味を損なわないというわけ。信州の山村で昔は当たり前に食べられていた石臼挽きのそばも、現代の私たちにとっては「手間暇かけた贅沢品」というわけです。
しかし近年では、大量生産のそば製粉機も水冷式となって熱を持たないで製粉できるようになり、用途に合わせて様々な美味しいそばが食べられるようになってきています。
黒いそば、白いそば
お店によってそばの色ってマチマチ。うどんのように白いのもあれば真っ黒なのもある。そば粉の割合の差かな?と思いきや、十割なのに真っ白いそばも・・・どうして・・・?じつはそばの実の中は複雑に分かれていて黒い部分ばかりではありません。中心部のまわりの胚乳は白く小麦粉に近い白さ、そのまわりの胚乳はもう少し緑味をおびていて、さらに外側の甘皮部分は濃い緑色になります。それぞれを中心に近い順に「一番粉」「二番粉」「三番粉」と呼びます。更に、すべての実、時にはそば殻まで挽き込む「挽きぐるみ」と呼ぶそば粉はそば殻まで挽き込んだ場合かなり黒くなります。
そばの色は、そばの実のどの部分を使用したかによる粉色の違いなのです。そばの実を製粉すると最初に中心部の白い粉がとれます、この粉は一番粉とか更科粉と呼ばれ、上品な色合いで"しゃきっ"とした食感が特徴です。一番粉を挽いた後に取れるのが二番粉。こちらは香りや栄養のバランスがよく、一番粉よりやや緑色が濃い色合いになります。そのあととれる三番粉や四番粉は、外側になるにつれ更に緑色が濃く風味の強い粉になりますが、食物繊維等を多く含むので食感は"もそっ"とした感じになります。更に、そば殻まで挽き込んだそば粉は黒い色が強くでて、そば殻の影響で少しざらざらとした食感になります。
ですので、食感を楽しむのなら白いそばを、風味を楽しむのなら緑や黒いそばを味わってみてはいかがでしょうか。このようにそばは使用する部位により、色だけでなく、風味、食感までが違ってくるのです。
そば湯
そば湯を飲む風習は信州から江戸に広まったと言われています。もともとそばはバランスのとれた栄養食。なかでもそば粉に含まれる植物性タンパク質はとても良質なことで知られます。しかしながら、何度もゆで釜でそばをゆでているうちに、溶けだした栄養素がゆで釜の湯にだんだんと濃縮されていきます。せっかくの栄養をムダにしないよう、生活の知恵として口にしたのがそもそもの始まり。このタンパク質の他にもポリフェノールの一種であるルチン、またビタミン、ミネラルも多量に含まれています。
美味しいそば食の後は、そば湯で健康をたっぷり味わいましょう。